■ 聖痕大戦

ハイデルランド全土を襲う未曾有の戦乱を描く「読者参加型小説」

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ショートカット
※付きは挿絵あり
序章/1/2※/3/4/5/6※/7※/8※/9/10※/11※/12※/13/14※/15※/16/17※/18/19/20※/21/22※/23/24/25※/26※/27※/28/29/30※/31※/32/33※/34/35※/36/37/38※/断章/39/40/41※/42/43/44※/45※/46※/47※/48/49※/50※/51※/52_1※/52_2/53/54/55_1※/55_2※/55_3※/55_4 (連載中)
聖痕大戦外伝

◇ 各話紹介

55『闇色の悪魔/4』
「御命令とあらば、自分は中佐殿に従います」
 レイガルは《雷の杖》の燧石器を引きながら頷いた。
「それがケルバーのためになるなら……僕も、征きます」
 ザッシュは怯えと勇気の入り交じった瞳を向けて頷いた。
「エミリア、君は」
 恐ろしいほどの輝きに満ちた瞳でエアハルトは彼女を見詰めた。エミリアは、これまでに彼が見たことのない表情を浮かべて応えた。
「わたしは、最後まであなたのそばにいます」
55『闇色の悪魔/3』
 反論したかった。さっさと殺せだなんて。僕たちはケルバーを守りに来たのであって、殺戮しに来たわけじゃないのに。だが喉に何かが詰まっているように声にならない。反感だけを瞳に浮かべ、ザッシュはエアハルトを睨んだ。口の中に広がる鉄の味が我慢できない。思わず血混じりの唾を吐き出す。
55『闇色の悪魔/2』
「……呪い?」
 リーフは小首を傾げた。この想いを呪いと呼ぶとは、随分捻くれた物言いだと思う。
 その彼女の内心を知ってか知らずか、ティアは同性ですら引き込まれるような照れと誇りを合わせた表情を浮かべた。
「ええ、まさに呪い。たとえようもなく甘やかで残酷な呪い。わたしも、あなたも、あのひとを必要としているということです」
55『闇色の悪魔/1』
夜襲、だって?」
 一同の疑問を代表して声を挙げたのはウェイジだった。
 彼の言葉にエアハルトは素っ気無く頷いた。
「そうだ。襲撃目標は第一に物資集積庫。第二に夜営中の兵士だ。僕たちは盗賊のように忍び寄り、焼き、殺す
 あけすけな表現でエアハルトは任務を要約した。
54『前夜』
「ここにいたのか」
 エアハルトはエンノイアの前に立ち、敬礼を施した。そのまま彼の隣に座る。全身から汗と、硝煙と、死臭に満ちた空気が漂う。戦場の臭いだ。
 凍ってしまったかのような女性二人を、彼は不思議そうに見上げた。
「どうした? 今日の戦争は終わったんだ。僕がここに来るのはおかしいかい?」
53『主導権』
「……はい、まあ……。エンノイア様はお休みになられないのですか?」
「眠れないんです」
 エンノイアの、苦悩が垣間見えるその表情にいたたまれなくなったエミリアは立ち上がり窓を一つ開け放った。夜風が気持ち良い。彼女は窓際に立ったまま問うた。
「緊張なさっておられるのですか?」
「緊張、恐怖、後悔、興奮」
 エンノイアは詩を謳うように呟いた。「その混淆といったところですね」
52『血の街路/2』
 痛みはなかった。猛烈な熱さだけを感じた。喉元を液体が込み上げる。鮮血。
 いい、テリー? 肺が傷ついた人は深紅の血、お腹が傷ついた人は黒い血を吐血するの。深紅の血の時は危ないわ。忘れないでね――。
 ふとティナが教えてくれた療務知識を思い出す。はは。肺をやられちゃったのか。意識が揺らぐ。視界が暗く狭まっていく。畜生、僕は、なんで……。
52『血の街路/1』
 さあ、ひどいことになるぞ。エアハルトは唇で細巻を弄びながら思った。街を瓦礫に変えながら。まさに言葉通りに。市民はどれだけ耐えられるだろう。二週間は難しいかもしれない。ブレダ兵は強い――いや、愚かではないかと思うほど勇敢だからな――。まったく楽しみだ。僕のように覚悟を決めた奴はどれだけいるのだろう。
 楽しげに微笑むエアハルトを見て、戦務参謀は気味悪そうに眉をひそめた。
 こいつ、何で笑っていやがるんだ。
51『再編成』
「《星》たちの衝突……ね」
 チレンだった。彼女の呟きに応じるように、傍らに座るルヴィンが頷く。
「戦争が"刻まれし者"たちを引き寄せている。ケルバー軍の中だけじゃない。ブレダの軍勢の中にもまた彼らがいる。正直ぞっとするよ。ここに在る聖痕の数がどれくらいになるかと思うと。我が師が懸念するのもわかる」
「だからこそ、あなたたちを送り込んだのでしょう?」
 チレンが応えた。あの日、ルヴィンから聞いたセプテントリオンの指示――ケルバーでの戦いの行く末を見守れ――に従って、彼らは避難民となることなく街に滞在し続けている。この街における、数少ない冷静な傍観者といったところだ。
「結末はどうなるのかしら」
50『衝動』
「殺す──まだ殺す」
 走り出す。レミリアと真っ正面から向きあう。
「何で!?」
 信じられない。あの人は恐怖感がないの? それとも、それとも。
49『恐怖』
思い出せ あの頃の自分を──

──殺戮が大好きだった自分を
48『竜の咆哮』
「各大隊、射撃準備よろし!」
指示棒替わりに己の腰に携えていた《雷の杖》を掲げたクリスティアは、裂帛の号令と同時に杖を振り下ろした。。
「撃ち方始め!」
「てぇーっ!!」
47『勧告』
 シグムントは、控えめな微笑みとともに頷いた。エンノイア・バラードという男も、自分と同じ基準を持つ男だと気づいたからであった。
「――さて、戦陣で再びまみえるまでのしばしの別れです。このような時、ブレダではどのような挨拶を交わすのですか?」
大いなる武勲名誉ある好敵に
46『開戦』
「時間をわきまえて欲しいな」
「現実は時間など気にしてはくれないよ、プラトー・フォン・ドーベン」
 "シマフクロウ"が言葉を返した。鳥の口から紡がれたものとは思えぬほど流暢で、深味があり、聞くものに安堵感を与える声音であった。
「それで、僕の睡眠時間を削る素敵な報せはいったいなんだい?」
戦争だ」
 シマフクロウは大きな目をしばたかせつつ告げた。
45『過剰反応』
 リザベートが振り返り、壇の裏に控えるエンノイアを呼ぼうとした。扇動者を排除しなければならない。そして、理性的な話し合いに戻さなければ――。
 すべては遅すぎた。
44『狙撃』
 間違いない。竜伯だ。
 ロキシアは遠眼鏡を放り、己の目で弓身の先に設けられた照準尖で狙いを付けた。彼女の鷹の目にも劣らぬ視力は、確実にその先にある竜伯の姿を捉えている。
 引金に、指をかけた。
43『証拠』
 書類を片手にカーヅェルはフェスティアの元に出頭した。
「判明しました。〈ヤグァール〉は間違いなく竜伯の暗殺を計画しています」
 尋問の結果得られた情報は、〈ヤグァール〉が〈ブルーダーシャフト〉関連組織の依頼を受けて、暗殺者を複数雇い入れたということだった。
「間違いないのね?」
 フェスティアが擦れた声で問い返した。
42『最後の休息』
「それは良かった。僕もそうだよ。とはいっても、僕が祭に行ったのは今日を含めて二回しかないけど」
「……」
 リーフは、その声音に一抹の不安を覚えた。何故かはわからなかった。ちらりと横目で彼の顔を見上げる。彼の視線は、ここではないどこかを見詰めていた。
41『工作官』
「あれだけで戦争を行う大義を手に入れられるのならば、はした金だろうさ。大義は、数量化できない」
「そうだろうな」
 フッセ氏は安細巻を懐から取り出し、くわえた。男にも差し出す。二人は点火芯でそれぞれ火を付けた。
「次はあんたの番だ」
 男は紫煙とともに言った。フッセ氏は頷いた。
40『摘発』
「では、ケルバーは」
 カーヅェルは珈琲を一口含み、その濃い飲み物のせいだけではない苦み走った微笑みを浮かべた。
あらかじめ失われた街なのですね」
「詩的ね、カーヅェル」
39『協力』
「〈ヤグァール〉の隠匿倉庫を最初に発見したのは保安部の人間でした。そこでこの覚書を見つけた、ということです。箝口令はしいてあります」
 フスが差し出した紙切れには、【リザベート・バーマイスター暗殺計画に備えて諸準備を整えよ】と記されている。
 エンノイアは無言のままそれを見詰め、「お茶が欲しいですね」と呟いた。
断章『決意』
 あたしは彼の強さの助けになりたい。
 あたしは彼の優しさを受け取りたい。
 あたしは彼の恐さを取り払いたい。
 あたしは彼の哀しさを包んであげたい。
 あたしは彼の脆さを守ってあげたい。
 ――あたしは、彼が──
38『蠢動』
「最後の戦争」
 テアノが反芻するように呟いた。
「そうよ。これから始まる戦争は――とても素敵な戦争になるわ」
 彼女に振り返ったメーヴェルの微笑みは、まるで乙女のような清楚さに満ちていた。
37『それぞれの予感』
「……ってえな! クレア!!」
 うずくまり、手でわき腹を押さえている。「手加減しろよ!」
「それじゃ鍛練にならない」
 少女――クレア・シュルッセルは汗一つ流れていない顔で冷ややかに彼を見下ろした。
36『街道』
「ありがとう……ございます」
 目許を赤らめながらマティルダは受け取った。これほどの善意を他人に等しい人物から受けるのは初めての経験だった。
35『猟犬対狂犬』
 にぃ、とジークバルトの口が持ち上がった。
「死ね! 飼い犬!! 偉大なる救世母の役に立たぬがらくたがッ!!!!」
 ジークバルトの罵声を聞いた瞬間、セルシウスの意識が沸騰した。
「――母さまの役に立たないだとッ!!!!!!」


34『捕縛』
「何よ、これ……」
 アネマリーが呻いた。
 足元には血の池に身を浸す二人の男。もちろん死んでいる。これで生きていたら化け物だ。
「……これは?」
 酸鼻極まる現場に頓着せず、セルシウスは死体の衣服を調べていた。血に塗れることも構わず探った懐には、牙を象った木彫りのペンダントが仕舞われていた。アネマリーは、それが〈ヤグァール〉という組織の構成員の証たる品だと教えた。
33『前兆』
 最も〈ウェルティスタント・ガウ〉で危険な一画と呼ばれている通りに、彼女は差しかかった。本人はそのような事情を全く知らない。いや、知っていたとしてもここに来ただろう。悪い人でも、悪い人だからこそ救われるべきだと思っているからだ。それはシーラの美点であり欠点であった。
 
 いかにも品の悪そうな酒場の前を通り掛かった時、中からの声が漏れ聞こえた。
「このままでは駄目だ」
32『訓練目的』
「いらぬ強情など無駄だ、馬鹿者」
 彼の言葉は高圧的な叱責であった。しかしその響きはきつくはなかった。実際、そう告げた時のティーガァハイムは呆れと苦笑をないまぜにした表情を浮かべていた。
「ユングに文句を言われるのは、俺なのだぞ」
「申し訳……ありません。アーネフェルトさま」
 汗を拭いつつ、フルーラは謝った。しかし、その容貌には抑えきれぬ微笑みが浮かんでいる。荒い息の合間に紡がれたその言葉は例えようもなく甘やかであった。
31『霊媒』
「……覚悟しておいた方がいいわ、あなた」
 リーは向き直った。焚火の赤黒い炎を受けて半面だけが闇から浮き上がったその仮面は、まるで絵物語で語られる死神のようにも見える。そしてそこから覗く瞳は、ただ哀しみ――そして憐愍だけが満ちていた。
「リーフ・ニルムーン。あなたの連れ……エアハルト・フォン・ヴァハトは……遠からず死ぬことになるから」
30『情勢分析』
「また正規軍から派遣があったんじゃない? この前も来たし……確か、ティーガァハイム領軍だったっけ」
 シェネカーは再び視線を落としながら何の気なしに応えた。「あんたは隊長だから、そういうことが気になるのは仕方ないけどさ」
 言外にもっと気楽にしなよ、という意味を込めてシェネカーは言った。ツァラ・レアンダーという女性には、そういう労りをさせたくなる雰囲気があった。
29『軍議』
 レイルが指示棒を脇に抱えて、一礼した。ライラは御座より立ち上がり宣言した。
「三日後、我らはエルクフェンより順次進発し、出撃陣地へと向かう。《暴風》作戦決行予定日は五月一日である。
 諸将の、まさに《暴風》の如き奮戦を陛下と祖国、そして余は期待する!
 偉大なる祖国万歳! ガイリング二世陛下に栄光あれ!!」
「祖国万歳! ガイリング二世陛下万歳!! ライラ殿下に勝利を!!!」
28『野外訓練』
「リーフさん、見つからないようにしてください。怒られるの、俺なんですから」
 レイガルが囁いた。わかってると言いたげにリーフは頷いた。
「あの女は誰なのよ」
 リーフが訊ねた。声の響きは詰問に近い。レイガルは何故かこめかみに冷や汗を流しながら答えた。
27『王都』
マルガレーテは四阿から本館への小道を歩きつつ、ふと思い付いたように訊ねた。
「……プラトー様」
「なんだろう」
「もしあなたが、権限をも手に入れたとしたら、この戦争などすぐに終わらせられるのではないでしょうか」
「――それは、どうだろう?」
プラトーは小さく微笑んだだけだった。返事をするには、あまりにも危険な問いだった。
26『執行官』
「お久しぶり、アッちゃん。元気?」
忘れられない服を着た女性が、思い出したくない声音で、聞きたくない言葉を紡ぎだした。
エヴァンゼリン。いや、彼女にとってはエヴァンゼリン教練官。敬意と恐怖を抱く最高にして最悪の恩師。
25『使節団』
「――だから、バーマイスター伯爵やナインハルテン伯爵、そしてエミリアを悪く思わないでくれ。僕だけを恨め。そしてもう一つ、けして我々は君たちを死なせはしない。これは宣誓だ。地獄の如き経験をさせることへの贖罪にもなりはしないが、誓う。必ず生きて故郷へ戻らせる」
 痛みを覚えるほど、彼は真剣な眼差しで子供たちを見詰めた。
 内心には偽善を為そうとする己に対して、自殺したくなるほどの嫌悪感が渦巻いている。

僕は、ろくな死に方をしないだろう。
24『委任』
「お……俺もこれを被るのかい?」
 レイフォード・アーネンエルベは呻くように訊ねた。
規則よ」
 フェスティア・ヴェルンは素っ気無く答えた。しかし、怜悧な容貌には小さな微笑みが浮かんでいる。
23『ケルバー保安部』
ミックとヴァルレイルは、縛り上げた二人を適当な倉庫の中に突っ込んだ。息を整える。ミックは邪魔な外套を脱いだ。手甲の具合を確かめる。ヴァルレイルは腰に下げている鞭の握りを確かめた。同じく息を整える。ヴァイパーは二人の様子を見遣りながら、腰に下げた小剣の柄に手を遣った。大きく深呼吸。小さく、しかし強い響きで命じる。
「行け!」
22『開幕のホルン』
「それで? あなたがこちらにいらっしゃった理由は?」
「当地の審問官の統括です。宮廷魔導院に動いてもらう間、派手に動くわけにはいきませんので」
ちらりとエヴァンゼリンを見遣る。「特に、派手好きがいますしね」
「別に派手に"して"るんじゃないわ。派手に"なる"のよ、何故か」
21『役者たち』
マレーネは"暗き魔女"という二つ名そのままの、暗い情念に満ちた笑みを口許に貼り付けて呟いた。
「我らの計画に比べ、何と卑近な。たかが一国の興亡ごときで」
「その我らとて、そのすべてを知るわけではない」
「"黒獅子"よ、それは何か事実に基づいての言葉か?」
"黒獅子"シグムント・ローゲンハーゲンは表情を変えずに応えた。
「推測だ、もちろん。しかし嫌な感じがする。《天秤》がすべてを握っているとは思えない」
20『昔語り』
「暗いな……」
ティアも顔を上げる。そよ風になびく髪を片手で押さえ、応える。
「はい。――は遥かな昔に砕けてしまいました」 そっと、彼のそばに身を寄せる。
「でも、今のわたしにはマスターがいます。わたしには、それで充分です」
19『秘命』
「はじめまして、"虹の紡ぎ手"。真の元力使いにして"七色の魔法使い"の最も若き直弟子よ。あなたの名は伺っていました。わたしは"風の息"ジョンです」
呆気にとられたような表情のまま、ルヴィンは差し出されたローブの青年――ジョンの手を握った。
18『増援』
「ヴォルフラムは、味方殺しの狂騎士です」
「知っている。王妃陛下が懇切丁寧に御教授してくれたよ」
「ならばなぜ? いつまた狂気に染まるかわかったものではありません」
「所詮、人間はどこか狂った一面を持っている。わたしも、お前もだ」
17『切っ先たち』
「もしかして……あんたか?」
「はい! 第九〇二槍兵大隊へようこそ。大隊指揮官のレミリア・フラウです」
「………………ああ」
グエンは苦虫を噛潰したような表情を浮かべて頷いた。――こうして、二人は出会った。
16『《暴風》作戦』
作戦に関して以下のごとく命令する。
(1)攻撃目標
迅速かつ猛烈に、中央軍集団はアルザンス北東部周辺域より出撃し、ケルバー地区の敵戦力を包囲殲滅すべし。
15『巡礼団』
"果て"? 光と闇のぎりぎりの境界線? それとも違うのかしら。怖い。怖い。リーフィスの胸の内に、屋敷を出た時の恐怖と怯えが蘇る。ああ、でも。怖いはずなのに。

わたしの心の奥底から沸き上がる、この抑えがたい歓喜はなんなの?
14『傭兵』
ふたりは何か深刻な表情で会話していたが、リーフの声に気づくと、表情を改めて手招きした。
「何話していたの?」
「うん、昔話をちょっとね」
13『議事録』
『なんにせよ、我らは集めなければならない。ありとあらゆる悪行に手を染めてでも』
【そう、すべてはそこから始まる。正義という名の妨害を排してでも行わなければならない】
〈すべては、この煉獄からの解放のために〉
12『会合』
「我々には盟友がいることになっています。そしてケルバーは、どちらかといえば彼らの管轄でもある」
"人外の者たち"」 マレーネは演劇の台詞のように呟いた。
11『信頼醸成』
「――暗闇の側面に対抗するために、審問官が存在する。そう言いたいのですか」
「救世母の福音に耳を貸さぬ愚か者もいる。彼らに教えを説いても意味を成さない」
リーフィスを見遣る。 「ならば、それなりの手段を講ずるほかない」
10『ネゴシエイター』
この世に戦乱を――だが、素敵な最後の解放戦争を告げる、とても大事な悪魔の囁きだ。
シュネーはぞっとするような微笑みを浮かべた。
「リザベート・バーマイスターを殺すんだ」
09『戦略計画』
ブレダ王国軍は、エステルランド王国を電撃戦により打倒する準備を進めるべし。
王国宮廷府および王国軍最高指導部は、次の原則に基づいて準備するものとする――。
08『戦備え』
「これはいわゆる杖ではありません。これは錬金術で作られた《雷の杖》と呼ばれるれっきとした武器です。まあ、火薬を用いた射撃武器ですよ」
「知らなかったな……。これで武器なのか」
07『前線視察』
「わたしにも愛する者がいる。それを大切と想うのは人間として至極当然だ。ただし、任務を忘れない限り、だが」
「公私はわきまえますよ」
06『状況証拠』
「ケルバーから旅立った審問官は、銀色の義手を持っていた、と。宮廷魔導院が把握している審問官の中で、その特徴と一致するのはただひとり。フェルクト・ヴェルンだけ」
「……」 レイフォードは礼儀正しく沈黙を守った
05『演習』
開戦の大義名分得るためと、あの恐るべき《竜》――ディングバウを無力化するための作戦が進んでいることを知ったら。……怒り狂うだろうな。馬鹿な娘だ。名誉が何の役に立つというのだ。
04『忠告』
「……どうしてあなたは、そこまで司祭ヴェルンを――フェルクト様を信頼できるのですか?」
「――わたしは、あの人に命を救われたの。死が荒れ狂う地獄で」
03『自由の代償』
「ああ……旅の仲間です。リーフ、自己紹介を」
「あの、えっと――リーフ・ニルムーンです。一応吟遊詩人みたいなことやってます。一七歳です。好きな食べ物は――」
02『聖女エシルヴァ』
「そなたはかつて、こう申したことがあったな。"この世界を救いたい"と」
「はい、アーシュラさま」
小さいが良く通る美声でリーフィスは答えた。
01『戦況』
十二月二九日。エステルランド王国特使が返答を渡し、宣戦を布告。歴史はこの時をもってツェルコン戦役が開戦したと記録している。
そして、一〇六〇年。歴史は、大きな転換点を迎えることになる。
00『緊急報告』
「我々が戦うべき戦争に正義や誇りはない。英雄もいない。誰も彼もがあの不幸な少女たちと同じだ。誰にも看取られることのないまま死にゆく贖罪羊なのだ」

■ 聖歌

囚われし宿命――
其はあまりにも厳しく
あまりにも逆らい難く
そして希望に満ちた――闇の鎖
無に覆われし月光
闇に蝕まれし陽光
光は堕ちた
しかし光はまた満ちる
束縛に抗う希望の光が
神の奇跡――聖痕――力の誘惑
いまこそ鎖を断ち切らん
アルカナの刃となりて――の運命に挑まん

魅せられし心――
其はあまりにも醜く
あまりにも強く
憐れなる――殺戮者
悪徳を血肉とし
子守唄は亡者の呻きと獲物の悲鳴
聖痕の甘露を嘗め尽くし
邪なる快楽に身をやつす
闇の先は"無"
救いの果ては"死"
その心に振り下ろさん
神の慈悲――アルカナの刃

刻まれし道程――
其はあまりにも昏く
あまりに遠い
聖痕に彩られし旅の路
死してその屍拾う者ひとりなく
ゆめゆめ想う者もない
史に記されることなき陰の路
振り返れば闇が誘い
遥か果てに光が待つ
そして
聖痕は還る
路は光に刻まれし
を打ち払う我もまた――アルカナの刃

謝辞

この物語は、畏友T氏、M氏、N氏がいなければ生まれなかっただろう。
君たちが示唆してくれたいくつかの事柄が、この話に反映されている。

そして、
『Blade of Arcana』という世界で、日夜戦い続ける"刻まれし者"
――プレイヤーたちに最大限の感謝を。
この物語を、空想の世界で
――しかし、確実に我々の中に存在する――
生き、苦悩するあなたがたに捧げる。

▽ クレジット

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孝による聖痕大戦トップ絵
[ spiritual-echo ]
挿絵:孝(CHARDONNET)