聖痕大戦 "ブレイド・オブ・アルカナ" アナザーストーリー
Another Stories of "Blade of Arcana" Extra ARMAGEDDON
第一章 凍てる戦争
13『議事録』
西方暦一〇六〇年某日(詳細不明)後世発見された議事録より抜粋
「……てください。問題ありませんから。気を鎮めて、瞑想状態へ――そう、ゆっくりと呼吸して……」
「精神結合状態まで三〇秒。心拍・血圧ともに順調に低下。4号は既に結合状態にあり。3号、5号との連携確認。同調開始……よろしい、コンタクト」
『……やれやれ、これが噂の同調会合というやつか。驚いたぞ、君たちから派遣されてきた“霊媒”を見た時には。年端もいかぬ少女じゃないか』
〈申し訳ないが、あなたの話に付き合っている時間はありません。監視が厳しいのです〉
【君も万能ではないということか】
〈万能なのは唯一救世母のみですから。それはよろしいでしょう? さて、我らの『計画』の状況ですが……〉
『こちらは順調だよ、もちろん。なにしろ君たちと違って制約がないからね』
【浸透は進めている。しかし、計画のためとはいえ、あのあばずれに協力せねばならないのは業腹だ】
『仮にも君は貴族だろう? もう少し言葉を選びたまえ』
【……貴様に言われる筋合いはない】
『ははっ、同じ悪行に手を染めておいてその言い草かね? 底が知れたな』
【悪行の自覚はあるのか】
『無自覚で行うよりはましだと思うのだが?』
〈我らの計画はむろん悪行ですよ、伯爵閣下。しかし決して闇ではない、そう信じています〉
【なればこそ、このような計画を君が――神徒たる君が遂行する、というわけか】
〈そうです。いけませんか? わたしは待った。待ち続けたました。しかし、もう彼らには“力”がない。“闇”がどれだけ強力なのか知らぬ者たちがあまりにも――そう、あまりにも多すぎる! このまま徐々に光が敗北していくのを座視するのは嫌なのです〉
『どうやら君は、わたしと同じ認識を抱いているようだ。――面白いものだ。この種の考えを君のような人間が抱くとは』
〈光に近い場所にいればこそ、見えるものがあるということです〉
【御託はたくさんだ。それで? わざわざこのような会合を開いたのだ、何か知らせたいことがあるのではないか?】
〈“復讐者”からの情報です。順調に計画第一段階をこなしています〉
【ほう。では来寇してくるのだな、ブレダが】
〈作戦名は《アイルハルト》。春季攻勢第一陣は《暴風》作戦です〉
【金色外套王の名を冠した作戦か。オクタール族にしては大向こうを狙ったものだ】
『しかし、その作戦も我らの手の上のもの』
〈然り。混濁した状況を作りだしてもらわねばなりません。エステルランドの防衛体制はどうですか?〉
【長期の臨戦態勢で疲弊している。ザール戦線は、先制されれば危ないだろう。ひとりふたり、まともな指揮官はいたが、所詮は下級指揮官だ。問題あるまい】
〈作戦の重点となるのはケルバーのようです。そこでつまずくわけにはいかない〉
【軍備は、徐々に増強しているらしい。自由都市だからな、王国といえども自壗に手は出せない。しかし、超人的な努力で兵力を揃えたところで、ブレダの進攻を止めることはできまいよ。戦争はつまるところ数だからな。それよりも、戦争に最も大きな影響を与えるのはそちらではないのか?】
『確かに。聖救世軍は余りにも強大に過ぎる』
〈聖救世軍統帥本部、教皇官邸への欺瞞工作は開始しています。それに、戦争序盤から介入する気は教会にもありません〉
【ならよいのだが……】
『なんにせよ、我らは集めなければならない。ありとあらゆる悪行に手を染めてでも』
【そう、すべてはそこから始まる。正義という名の妨害を排してでも行わなければならない。あらゆるものを打ち壊してでも】
〈すべては、この煉獄からの解放のために〉