聖痕大戦外伝 《剣を継ぐ者》 
 "ARMAGEDDON" Another stories - "Inherit the Sword"


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 4『演劇』

 防人の秘めたるもの
 

 エミリアを警護する旅が、防人としての出発点だった。
 それまでの僕はただの魔器使いで、それからの僕は防人になったのだと思っている。
 
 ああ、確かに僕は心底から“ヴァハト”に、“防人”に覚醒したのではない。それは認めよう。
 でも、“ヴァハト”であること、“防人”であることを理由にして贖罪を果たすことと、ヴァハトとして、防人として行動することにどんな違いがあるというのだろう。
 ――僕はそう自分に言い聞かせてヴァハトと防人とを演じている。もちろんそれが詭弁であることは承知の上だ。
 
 それからのティアとの関りは理想的だったと思う。
 万物を護る防人にしてヴァハト、エアハルト! その従者にして剣のティア!
 まったく、ひどい偽りだ。心が痛まなかったといえば嘘になる。時々、何もかもをさらけ出して彼女にぶつけてやろうかと思ったことすらある。
 でも、できなかった。
 偽りであろうとも、ティアとの繋がりに暖かな何かを覚えたせいかもしれない。
 ティアという存在は、僕にとって久しぶりの(もしかしたら初めての)感情を生起させていたからだ。醜い自分を露出することによって、それが壊れることに恐怖を覚えた。ひどい利己的な理由だ。ああ、本当に嫌になる。生きていると、どんどん自分を嫌いになっていく。
 
 ティアは僕に無償の献身をしてくれる。それは本当に嬉しかった。心の奥底に暖かな感情が生まれてしまうなほどに。
 でも、それは僕に対するものではない。ヴァハトに対するものだ。当然だ。本当の僕はどうしようもない男だ。薄汚い存在だ。
 それを糊塗したいと思うからこそ、僕はどんどん“防人”を、“ヴァハト”を演じていった。そうすればティアは僕の本質に触れないで済む。
 
 僕の本質に触れられないで済む。
 
 うん、つまり僕は現実という舞台で、彼女が望むヴァハトの仮面を被り、演じているに過ぎない。
 最初はティアのためだった。でも、今は僕のための演劇だ。
 彼女を傷つけないためではない。自分を護るための演技。はは、そういう意味では防人の義務を果たしていることになるのだろう。
 そして賢明な彼女は、僕の演技に付き合ってくれている。ありがたかった。本当に、嬉しかった。
 
 他者から見れば、僕はひどい奴だろう。自覚はしている。でも、本当の自分を晒すことなんて誰にでもできることじゃない。誰だって、どれほど親しかろうと仮面を被って、演技をして他者に接するんだ。
 
 所詮人生は演劇なんだ。
 
 もちろんこれが言い訳なのもわかっている。


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