■ 設定資料:ブリスランド王国
(原案:カラス氏/編纂:OKW)
「蜂蜜と硝子をすべての国へ」
――ブリン朝第三代国王パトリック
「蜂蜜と硝子と錬金術を、すべての国へ」
――ブリン朝第五代女王パトリシア二世
「我が国の軍備は――中でも諸卿が不安視する竜撃艦隊は――まずもって、西海を誰にとっても平和の海とするために存在する。その主任務は貿易航路の開拓と拠点の整備、商船隊護衛であり、諸外国への対抗兵力としての順位は極めて低く――」
――ブリスランド王国竜撃艦隊司令長官サー・フランシス・ヴィーキン提督
(ケルファーレン公国宮廷における講演より抜粋)
◇ 地勢と沿革
ハイデルランド地方西方に広がる海洋――西海に浮かぶゲール島を中心に栄える島嶼国家である。
当初はワイト系部族とヴァルター系部族の争いが堪えない混乱の地であったが、西方暦六〇〇年代にシールズ王ハロルスタンによってワイト系部族がブリスランド王国として統一された後は徐々にヴァルター系部族をゲール島から駆逐し、西方暦八一二年、再征服王フレデリック一世の指揮の下で(一度は首都ヘントを制圧されかけたものの)フーゴ国王率いるヴァルター系部族との戦争に勝利した。以後、ブリスランド王国は王権を確固としたものとしている。
語圏としては西方ノッティング系に属する。
通貨単位はクローメ。
西方暦一〇六〇年時点における統治者はブリン王朝第五代女王パトリシア・エリス・ブリン。
◇ 政治体制と行政組織
一〇六〇年時点における政治体制は、王室を頂点とした堅固な中央集権制である。エステルランドと異なり、国家として確立された時期が長いことが要因だろう(また、ワイト族特有の文化的素養もあるだろうが)。
王室の下に外務院、導務院、法務院、軍務院、練技院、商務院という行政組織があり、外交、国防、商業、司法を担当する(内政は王室の専管事項)。この王国における貴族の立場は領主というよりは監督官という立場に近く、一部の大貴族を除けばいわゆる自領を保有する者は少ない(つまりほとんどの領邦は王室の管理下にある)。大半の貴族は国家から録を与えられている、いわば名誉階級である。
*各行政組織について
■外務院
外交を担当する組織。同時に情報活動と防諜活動もその任に含まれている。指揮下に外務局(外交)と情報局(諜報・防諜)を置いている。現時点において、エーリッヒ・ガーヴナー公爵が外務卿の座にある。
■導務院
もともとは魔法・言霊・秘義魔術を研究する学術組織であったが、その後国内の文化・教育活動の管理を担当するようになり――現在はそれに加え長期的な国家計画を王室へ献策するシンクタンク的な組織となっている。指揮下に教育局・研究局・計画局を置く。現時点において宮廷魔術師のファルサ・シュタインが導務卿を兼ねている。
■法務院
国内の司法業務を“補佐”し(司法権そのものは王室にある)、また国事を取り仕切る。法制局(法制事務)と宮務局(儀典)を指揮下に置く。法務卿はヴァルミエ・ウィンスター侯爵。
■練技院
錬金術の研究・支援・振興政策の立案を担当する組織。行政組織の中では最も新しく、三〇年ほどの歴史しかない。現在は元力の研究もその職掌に含まれており、後の世で言う自然科学全般の研究機関とも言える。現在ブリスランドは、パトリシア二世の号令のもと国家規模での錬金術振興を計画しており、各地に練科学校を設立している(これも練技院の担当)。練技卿は宮廷錬金術師を兼ねているギルバート・ヴァ・ラケルス伯爵。現在は外洋航海用の羅針盤の開発が急務(試作品は完成済み)。
■商務院
商業政策を担当する組織。国家として重商主義にあるブリスランドでは非常にその権限は大きく、彼らと交易商人があればこそブリスランドは繁栄しているともいえる。その立場上、組織内では商人上がりの役人が多い。ラダカイト商工同盟の最大の敵である。商務卿は商人上がりのアルフレッド・カニンガム男爵。
■軍務院
国防全般の監督を担当する。軍政と軍令を一元管理し、同時に竜撃艦隊(海軍)と竜騎軍(陸上軍)を指揮下に収めているという大所帯のため、若干組織として鈍重なところがある。軍務卿はウィリアム・グローブナー公爵元帥。
◇ 国防体制と軍備
ブリスランド王国は基本的に海洋国家であり、であるが故にまずもって海軍戦力の拡充が優先される。さらに八〇〇年代前半で国内の敵勢力を一掃してしまったため、特に強大な陸上戦力を必要としなくなったことも大きい(というよりも海上戦力の整備に予算を割かれてしまう)。そのため、ブリスランド王国の陸上戦力はそれほど大きなものではなく、治安維持のための警察集団としての色が強い(ただし、必要とあらば徴兵し規模を短期間で拡大する準備だけはしている)。
麾下に竜撃艦隊と竜騎軍を保有する。なお、各軍の名称に“竜”が用いられるのは、ブリスランドの伝説に登場する守護聖獣である水竜にあやかっているため。
■竜撃艦隊(ドラゴン・ストライク・フリート)
周辺諸国の中では最大の海軍。現在、他国に先んじて大型外洋帆船を開発し、順次装備を更新している(防衛線力というより、貿易航路開拓のための偵察艦としての意味合いが強い)。漕走船、漕走帆船(艦載重錬金術砲装備の前衛艦)、大型戦闘帆船の装備比率は5:3:2。その大半が艦載錬金術砲を装備しているという充実ぶりが目を見張る。
戦闘艦艇は総数三〇〇隻に及ぶ。また、ブリスランド王国の商船隊の一部は命令があり次第、竜撃艦隊の指揮下に入り通商破壊を行う私掠船となる。
■竜戦団(ドラゴン・マリーン・コア)
竜撃艦隊の指揮下にある、拠点防御及び接舷斬り込み要員としての戦闘部隊。軽歩兵の陸戦隊である。彼らは竜撃艦隊の各艦艇に分散配置されている。総兵力は二四〇〇〇名。
■竜騎軍(ドラゴン・アームド・フォーセス)
ブリスランド王国の陸上兵力。沿岸防衛と国内警備が主任務であり、“軍”というよりは警察軍に近い。ただし例外として王都防衛のための〈ブリン〉近衛兵団(二〇〇〇〇名)と遠征上陸作戦専門の〈アウルム・ダグラス〉遠征兵団(一二〇〇〇名)、国内巡回警備隊の〈ヴルカーン〉巡察警護連隊(三四〇〇名)は精強な部隊として知られる。ちなみに竜騎軍総兵力は十万強。これは竜騎軍が防衛すべきブリスランド国土から考えると非常に少ないといえる。
■王室直衛騎士(ダイナスティ・ナイト)
王国全軍から選抜された精兵が任命される全権代理騎士。あらゆる組織から独立し、同時に(女王からの特命が下れば)あらゆる組織に対する命令権を有する。最大定員は一〇名(西方暦一〇六〇年現在は六名)。まさに一騎当千と呼ばれる強者たちばかりであり、噂では“刻まれし者”で編成されているのでは、ともいわれている。
◇ 宗教関連
ブリスランド王国の国教は宗教分類上、新派真教となる。
この新派真教組織は西方真教正教会と呼ばれ、新派真教のおおもとであるエクセターの聖真教王立国教会とは多少、教義の解釈は異なるものの、新派真教特有の柔軟性から敵対関係にはなっていない(友好関係にあるといっていい)。新派真教として当然のように王権の下位に属し、首長としてパトリシア二世を冠する。宗教人としてのトップとしては首席祭司長としてフィメーラ・ウルスが任じられている。